EP1-Sub01 マジシャン・ガールズ

創作 第一章Subストーリー
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最高ランク : 12 , 更新: 2023/07/18 22:54:23

「………どこだここ。」

その場で首を右方向に60°くらい傾けたわたしは、今の状況に困惑していた。全く知らない場所にいつの間にか、一人で立っていたから。
ここはなんか…兎に角、凄く薄暗いところ。太陽なんて存在しないんじゃないかってくらいに空一面が薄暗くって、全体的にどんよりしてる。でも、こころなしか落ち着く場所。

(…いやいや、落ち着くもなにも、そもそもここがどこか分かんないんだけども!
そうだ、さっきまでのことを思い出してみよう。えーっと…)

頭の中に真っ先に出てきたワードを、口にしてみる。

「...It's MAGIC.」

いっつまじっく。『それは魔法だ。』

「…あれ?」

思い出せない。
……何も思い出せない。
重大なことに気がついてしまった。……わたし、何にも思い出せないぞ…!
どこから来たか、何をしてたか、わたしは何者か。…名前すら分かんないなんて…
頭を捻っても、出てくるのは「It's MAGIC」っていう、あのマジシャンが言う決め台詞だけだ。

「嘘でしょ…自分の名前すら分からない…っていうかなんでマジシャン!?」

意味が分からないので、もう15°くらい首を傾けてしまった。
その瞬間。

「……う、ヴプッ…!」

今までせき止められてたように流れ込んできたのは、頭を殴られるような激痛と抑えられない程の吐き気…
ああ、最悪。しかも、この場で少し嘔吐してしまった…

「はぁ…はぁ…もう…何なんだよ…記憶が無いってだけで災難なのに、超頭痛いし、吐いちゃうなんて…周りに人いなくてよかった。…いや、いたほうがいいか?」

最悪の気分でこれからどうしようか途方に暮れていると。

「オイお前……あたしらの縄張りで何やってんだ?」

ざっ、と座り込んでいた背後に大股で歩いてきたのは、4人組の黒服をきた女の子たち。
あ、この人たちの縄張りだったの…?はぁ、仕方ない、怒られそうだけど正直に言おう。

「え、申し訳ないんですけど吐いてました。」

「予 想 外 す ぎ る」

「わたしも予想外ですよ。ところであなた方、ここがどこだか教えていただけません?」

「あぁ?アタシらが何もしてこないからって舐めてんじゃねぇよ。」

「え…舐めてないんですけど……」

言葉通じないタイプの不良?いや、言葉が通じる不良ってのもあんまり聞かないけどさ。

「オイ、こいつどうするよ?」

「なんか態度が生意気だぞ、やっちまうか?」

突っかかってきた3人が一斉に後ろを振り向いて尋ねる。
その時になってようやく、わたしは今まで何も喋っていない子が1番後ろにいるのに気づいた。

(…この子、他の3人と違って、なんか見た目がお嬢様っぽい。…もしかして、なんとかしてくれるんじゃ?)

そう期待してみるも、彼女がニマっとした笑みを浮かべた直後、完全に思い違いだったことが発覚。

「ふぅん、おもしろそ。…よし、全員でいけ!

「「「オラァ!!」」」

「いやなんでぇ!?」

ツッコんだ直後に、三方向から素早い拳が!
まずい、この人ら会話が通じん!しかも不良っぽい!なんか全員黒っぽい服着てるしコワイ!

「いやなんか身体が勝手に避けてくれるーー!!なんでぇー!?」

なんでか分かんないけど、勝手に身体が動く!何、記憶あったときのわたし、反射神経抜群だったのか!?

「こいつ全っ然あたしらの攻撃が当たんねぇんだけど!?」

「あぁ!?知るかよ!お前の拳が遅いんだろが!」

「てめぇ、今すぐ殺り合いてぇのか?」

内輪もめ始まってない?ちょっと、こっちに流れ弾が来ることだけは嫌なんだけど。
しかも動いたから、また頭痛が…

「いッ…いだっ…!」

(最悪だ…さっきよりも…痛…い……)

思わず倒れそうになる。
うっすらと、ぼやけた何かが脳内に押し寄せてくる。








――――――――――――――――――――――――――――――







「じゃじゃん! 」

「ゆーかちゃん、すっごーい!どうやってやったの!?」

「ふっふっふ。ナイショ!言っちゃったらマジックになんないでしょー」

「ぇえー!ケチ!」

眼の前で喜ぶ女の子は、なんだか視界がはっきりしないせいか顔がよく見えないけれど、喜んでくれてる。
私の特技は「マジック」、まだ大したものしかできないけど、小さい頃から続けてる、私の唯一の趣味だ。

「さぁ、これでおしまい。」

忘れちゃいけない、それでは最後に、見てくれた君にご挨拶を。

It's...」





――――――――――――――――――――――――――――――




MAGIC! ! ! ! !」

そうだ、マジックだ。これだけは忘れちゃ駄目だったのに、どうして忘れてたんだろう。
マジックはわたしの全てなのに。わたしの存在の証明って言っても過言じゃないのに。

「ぎゃ!?」

「なん…っだこれ!?」

とりあえず私が思い出した、この場を切り抜けられそうなマジックを披露してみた。
ズボンのポケットには、愛用していたシルクハットが、折りたたんで入っていた。これとタネさえあれば、わたしは何だって出来る。

「タネも仕掛も、ございません!!」

「絶対なんか仕掛けてるだろ!!」

シルクハットからわたしが取り出したのは、だいぶサイズが大きいカラフルな布たち。これなら、3人まとめて覆って、身動きがとれないようにできる。
…そして、ゲロも拭ける!ずっと気になってたんだよ…ゲロの存在がバレたらなんかこの人たちいじってきそうだし…

「ってことで、ゲロも片付け終わったし!撤収っ!」




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




とりあえず不良が来た反対の方へ一直線に走っていくと、さっきまであった薄暗い場所とはまた別の、いや、周りはだいぶ薄暗いけれど、さっきよりも明るい場所に、草原が広がっていた。

「ここでひとまず休ませてもらおう……」

(わたしの名前…”ゆうか”かぁ。)

あんな目に遭ったのに、一番はじめに思ったのはそれだった。…まだ、マジックのことと名前しか、思い出せない。でも、それ以外は本当に何も思い出せない。時間が経過したら治っていくのかな。
そのまま、ふかふかの草原の上に寝そべっていると。

「なぁ、さっきの何ぃ!?すっごい!」

「え、は?」

「オイ、さっきの魔法何!?見たことねぇんだけど!」

集団のリーダー格っぽかった後ろにいた子が、目をきらきらと輝かせてわたしの方を見てる。
…いや、え、…魔法?

「今のは魔法じゃなくて、ただのわたしのマジック…っていうか、魔法って何のこと?」

「はぁ?何いってんだお前。」

ギャハハ、と笑い出したそのリーダー格の少女はその場でしばらく笑いだしてしまった。
…っていうか、見た目は茶髪ロングのヘアスタイルに、両側に長い三つ編みをリボンでくくっていて、大人しそうなお嬢様、って感じなのに、この子言葉遣いのせいで台無しなんだけど…

ここは、魔法を使えない奴なんかほとんどいない、魔界だろ!!お前どこ学?」

……ほら、しかもなんか変なこと言い出す不思議ちゃんじゃん。

「いやいや、じゃあなんで、その魔法とやらでわたしの事を攻撃しなかったの。完全に暴力だったでしょ、暴力。」

「ぐぇ、痛いとこ突くなお前…苦手なんだよ、私もあいつらも、魔法がよ…」

__この最悪の出会い…わたしと彼女…ソリエルとの出会いが、今後のわたしの人生を変えていくだなんて、この時は考えてもいなかったのだった。


次回 「魔界と魔法」

ハノウ


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